学費値上げに反対する学生らにより安田講堂前に設置されたテント
東京大学の学費値上げ検討をめぐり、学生から反対の声が上がっています。
現在の授業料から約10万円値上げ
現在の東大の年間授業料は、文部科学省が定めた標準額の535,800円。しかし文科省令では最大20%の値上げを認めており、仮に授業料が値上げされた場合、最大額の642,960円となり、約10万円以上の値上げとなります。国立大学ではこれまでに、東工大、東京芸大、一橋大、医科歯科大など7校が学費を値上げしています。
東大当局は学生には秘密にしたまま、水面下での検討を進めていましたが、5月15日、外部のメディア報道で発覚。学生の知るところになりました。東大当局は翌5月16日、学内ウェブシステム上で
▽現時点で決まったこととして伝えられることはないこと
▽値上げ導入年度の入学生から値上げ後の授業料が適用されること
▽値上げ後は授業料免除の拡充などの経済的支援を検討していること
▽6月に総長と学生が意見交換する「総長対話」を実施すること
などと説明。東大当局は学費を値上げして得た収入は教育環境の改善やデジタル化にあてるとしていますが、最高学府である東大の授業料値上げは他の国立大学に急速に波及する恐れがあることから急速に反対運動が広がりを見せています。学生らは反対運動を実施
東大の学園祭「五月祭」では学生有志がデモを実施。さらに駒場キャンパスでは教養学部自治会が1~2年生を対象に学生投票を実施。有権者の約37%にあたる2400人が投票し、授業料取り下げや「総長対話」での対等な交渉などを求める4項目の「駒場決議」が承認されました。また決議には140名以上の東大教職員も賛同署名するなど、教職員にも反対の動きが広がっています。
背景には財政難か 国立大運営費交付金は年々減額
2004年に国立大学が法人化されて以降、国が国立大学法人に対して交付する運営費交付金は減少を続けています。2004年の運営費交付金は1兆2,416億円でしたが、法人化から20年経った今年度は1兆784億円であり、20年間で1,632億円も減額されています。
一方、もう一つの収入源である授業料は2005年に535,800円に改定されて以降値上げのないまま、19年が経過。国立大学の経営は厳しくなっています。国立大学でつくる団体「国立大学協会」(国大協)は6月7日、声明を発表し、国立大学の財政状況について、運営費交付金が減額されたままであることに加え、経費の上昇や物価高、円安などにより基盤財源が圧迫されているとして、「もう限界です」と表明しました。今回、東大が値上げを検討している背景には、国立大学の厳しい財政状況も影響しているとみられます。
「総長対話」が開催
東大は6月21日、東大トップの藤井輝夫総長と学生のオンラインでの対話を開催。学生側は対面での対話交渉を求めていましたが、東大側は応じずオンラインでの対話となりました。
藤井総長は、授業料値上げでの増収額が約29億円になると説明。「教育環境の改善は『待ったなし』だ」と述べました。そのうえで値上げ後の授業料免除の基準を現行の世帯年収400万円以下から600万円以下に引き上げ、対象を学部生から大学院生にも拡大するとしました。
しかし対話に参加した学生のうち発言を許されたのはわずか十数名。駒場決議で要求された対等な場での交渉とは程遠い状況でした。質問に立った学生からは検討プロセスを疑問視する声や、親との関係が悪い等の事情がある学生等への配慮がないとして、学費免除基準を世帯年収で判断することに反対する声が上がりましたが、藤井総長は学生たちの意見や質問に対し、「検討する」と繰り返し述べるにとどめました。
駒場キャンパスで行われた自治会主催のパブリックビューイングでは、「本日の総長対話は意見交換の場として不十分なものであった」「総長と学生の意見交換の場を今後さらに設けるよう求める」などとする決議が全会一致で採択されました。
学生の抗議に対し大学が警察力を導入
総長対話終了後、学生らが安田講堂前で抗議活動を実施。学生らは対面での対話を訴え続けていましたが、東大側は警察に通報。警視庁本富士署員が多数駆け付け、学生らを排除しました。
東大当局は翌22日、声明を出し、「学生を含む複数名が安田講堂内に侵入し、制止しようとした警備員が怪我を負った」として警察に通報したと発表。しかし現場にいた学生らは「デモは非暴力で行われた」「警備員への傷害はなかった」「警備員と学生が談笑する様子も見られた」などと反論し、主張が対立しています。
東大敷地内への警察力導入をめぐっては学生運動最盛期の1969年、大学側が学内紛争の解決手段として警察力を導入しないと東大側と学生側で確認書が交わされています。こうしたことから東大教養学部学生自治会は6月23日、声明文を発表し、東大側が確認書に違反しているとして「大学の自治を脅かすものとして最も強い言葉で非難する」と非難しました。
上原議長「弱い学生への転嫁は理不尽」「法人化の功罪検証を」
日本自治委員会の上原瑞貴議長は、「運営費交付金が減らされたからと言って国を突き上げずに弱い立場の学生に負担を転嫁していじめるのは誠に理不尽な話。救われなさすぎる。」と述べ、東大側を批判。そのうえで「運営費交付金減少で追い詰められた国立大学が『国立』である最大の役割ともいえる教育機会の均等を放棄しつつある現状を見て本当に法人化が正しかったのか検証すべきだ」と指摘しました。