鳩山高校③
県立鳩山高校(埼玉県鳩山町=日本自治委員会提供)

【ISJ=平松けんじ】埼玉県立鳩山高校に通う男子生徒が、ヘアドネーションのために髪を伸ばしていたところ、学校側が頭髪指導を行い、一時不登校に追い込まれていたことがわかった。

4人で取り囲んで指導 学校側も威圧認める
 男子生徒は、5月21日と7月12日に学校側から指導を受け、7月12日には4人の教員に20分間廊下で取り囲まれる形で指導を受けた。保護者によると、男子生徒が「髪を切る」と言うまで帰宅を許してもらえなかったという。また、学校側は「帰宅指導」と称して男子生徒を自宅に送り返し、一部の授業に参加できなくさせた。

 同校の舩津忠正教頭は、先月31日、ISJの取材に応じ、同校の教員が男子生徒に威圧感を与える指導を行ったことを認めたうえで、後日学校管理職が保護者と男子生徒に謝罪したと説明したが、「髪を切る」と言うまで帰さなかったことは否定した。また、舩津教頭は「帰宅指導で授業に出られなかったというのはあるが、その時期は試験後の時期だった」「保護者に事前に話をして理解をいただいている」と釈明した。

「卒業後に就職する生徒が多いから」
 ISJが独自に入手した同校の整容指導項目では、男子は「短くさっぱりとした髪型。色は黒。髪をたたせていないか。整っているか。髪が目や耳、襟足にかかっていないか。」、女子は「前髪は目にかかっていないか。前髪は切るか、ピンでとめる。」などと事細かに記されている。

 ここまで頭髪指導を行う意図は何なのか。

 舩津教頭は「卒業の際に就職する生徒が多いので就職の際、試験とかで不利にならないように清潔感ある服装・頭髪を基本とした指導をしている。」と説明した。同校では月1回整容指導と称する頭髪や服装の指導を行っていて、「生徒服装規程」に違反した生徒への懲戒を明文化している。舩津教頭は「あまりにもひどい状態が続くようであれば、保護者のご理解の下、懲戒を行うこともある」と説明したが、保護者の同意が取れない場合について記者が尋ねたところ、「ご理解をいただいている」と述べるにとどめた。要するに「理解しない」「同意しない」という選択肢は保護者にはないらしい。

署名運動でやっと長髪認めた学校側
 男子生徒の保護者は、学校側や埼玉県教育委員会に相談したが、平行線が続いたため、インターネット上で署名運動を開始。14871筆の署名を集め、県議を通じて埼玉県教育委員会に署名を提出した。最終的に学校側は、8月26日、中村司校長が「保護者と本人の意思を尊重するという対応をする」(舩津教頭)ことを決めたが、あくまで「校長の権限として例外ですが許可します」(保護者の署名運動ページでの報告)ということのようだ。

学校側「適切な対応だった」
 学校側の対応は適切だったのか。率直に問うたところ、舩津教頭は「お互いの誤解とかもあったが、適切な対応だった」と述べた。一方で県立高校を所管する埼玉県教育委員会(教育局)生徒指導課の上遠野健主任指導主事は「最初の申し出のときに話をしっかり聞くのが大事」「学校の方も反省している」と述べ、事実上学校側の初動対応が適切ではなかったことを認めた。

 だが、県教委にも問題点がないとは言えない。保護者から相談を受けた県教委は「適切に対応するように」とだけ鳩山高校に伝えるにとどめ、具体的な威圧的指導の中身などについて事細かに学校側に事実確認していなかったのだ。上遠野氏は「(県教委が)学校と保護者の間を取り持って、納得いただくような形で取り持っている」と説明したが、学校に保護者の要望を伝えるだけでは事態は動かない。

県教委「不合理なものは指摘することもある」
 今回の鳩山高校の一件は、情報開示請求で開示された生徒心得、生徒服装規程以外にも整容指導項目という形で事細かに指導が行われていたことが明らかになった。こういった公式的に明文化されていないルールや指導の在り方について、県教委はどう考えているのか。

 上遠野氏は、記者の質問に対し、「不合理なものやあまりにひどいものに関しては、いかがなものかと伝えることはある」としたものの、「学校と保護者が話をする機会を設けて、相互に納得いくような方向性に持っていくことが必要だ」と指摘するにとどめた。

 埼玉県教委は今回校長がある意味保護者の署名運動を受け、妥協したことで問題が解決したという認識のようだが、問題の本質はそこではないはずだ。

 生徒の人権を踏みにじる「ブラック校則」の見直しが全国的に訴えられている。文部科学省は、今年6月8日、「ブラック校則」の報道を受け、「校則の内容は,児童生徒の実情,保護者の考え方,地域の状況,社会の常識,時代の進展などを踏まえたものになっているか,絶えず積極的に見直さなければなりません」と通知し、教育委員会や学校に積極的な校則見直しを求めている。こういった中での県立鳩山高校の事例への県教委の対応は、消極的なものと言わざるを得ない。改めて校則、また指導の在り方を見直すべきだ。

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※本記事は「The InterSchool Journal」からの配信記事です。 
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